「最近、あまり歩かなくなった」
「運動したほうがいいのは分かっているけれど、なかなか続かない」
そんな人におすすめしたい、身近な健康習慣のひとつが**「歩くこと」**です。
歩くことは、特別な器具や場所を必要とせず、日常生活の中に取り入れやすい身体活動です。
そして、これまでの研究では、歩く時間や歩数が多い人ほど、死亡や身体機能の低下などのリスクが低い傾向が報告されています。
2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、2014年以降に行われた57研究を対象に、歩数と死亡、心血管疾患、糖尿病、認知機能、精神的健康、身体機能、転倒などとの関連が検討されています。研究では、1日7,000歩は2,000歩と比較して、全死亡リスクが低いことと関連していました。ただし、これは主に前向き観察研究をまとめた結果であり、歩数を増やせば必ず同じ効果が得られるという因果関係を証明したものではありません。
Ding et al.「Daily steps and health outcomes in adults」PubMed
さらに、日本人高齢者を対象とした研究では、歩く時間が長い人ほど、障害なく生活できる期間が長いことも報告されています。
「Time spent walking and disability-free survival in older Japanese」PubMed
では、健康寿命を守るためには、どのくらい歩けばよいのでしょうか?
この記事では、「毎日歩く」という身近な生活習慣について、科学的な根拠をもとに分かりやすく解説します。
健康寿命とは?
健康寿命とは、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。
単純に「何歳まで生きるか」だけではなく、
「自分らしく、自立した生活をどれだけ長く続けられるか」
という視点が大切になります。
そのため、健康寿命を守るには、病気の予防だけでなく、
- 歩く
- 筋肉を維持する
- バランス能力を保つ
- 日常生活を自分で行う
といった身体機能を維持することも重要です。
なぜ「歩くこと」が健康寿命と関係するの?
歩くことは、私たちの身体を動かす基本的な活動です。
歩行によって脚や体幹などを使うことで、日常生活の中で身体活動量を確保しやすくなります。
また、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、身体活動量が多いほど、疾病の発症リスクや死亡リスクが低いことが示されています。また、現在の身体活動量が少ない人では、今より少しでも身体を動かすことが健康づくりにつながるとされています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
特に注目したいのが、「歩くこと」と「自立して生活できる期間」との関係です。
日本の65歳以上の14,342人を対象にしたOhsaki Cohort 2006 Studyでは、1日の歩行時間が、
- 30分未満
- 30分~1時間
- 1時間以上
の3群に分けて調査されました。
30分未満の人を基準にすると、30分~1時間歩く人では、障害または死亡の複合アウトカムのハザード比が0.84、1時間以上歩く人では0.78でした。
また、障害なく生存できる期間については、30分未満の人と比較して、
- 30分~1時間:約238日長い
- 1時間以上:約360日長い
という結果が報告されています。
「Time spent walking and disability-free survival in older Japanese」PubMed・原論文
ただし、これは「歩けば必ず健康寿命が延びる」という意味ではありません。
この研究は観察研究であり、歩行そのものが健康な期間を延ばしたと因果関係を証明するものではないからです。
それでも、歩行と健康な期間との関連を考えるうえで、重要な研究結果といえるでしょう。
歩く時間を増やすと、健康な期間は長くなる?
別の日本人高齢者を対象とした研究では、65歳以上の7,105人を13年間追跡し、歩行時間の変化と「障害なく生存できる期間(disability-free life expectancy)」との関係が調べられました。
1994年には歩行時間が少なかった人のうち、2006年までに歩行時間を増やした人では、歩行時間が少ないままだった人と比較して、障害なく生存できる期間が男性で約2.3年、女性で約2.2年長いという結果が報告されています。
一方で、この研究も前向きコホート研究であり、歩行時間を増やしたことだけが差を生み出したと断定することはできません。
それでも、「歩行時間を増やすこと」と「健康な状態で過ごせる期間」との関連を示す、日本人高齢者における重要な研究です。
Matsuyama et al.「Changes in time spent walking and disability-free life expectancy in Japanese older people」PubMed・原論文
1日何歩くらい歩けばいい?
「健康のためには1日1万歩」
という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、1万歩を歩かなければ健康に意味がない、というわけではありません。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人について、3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行うことを推奨しており、具体例として、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、約8,000歩以上としています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
一方、高齢者については、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分以上、約6,000歩以上が目安とされています。
そして、厚生労働省は、
「個人差等を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む。今よりも少しでも多く身体を動かす」
という考え方を示しています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 推奨事項一覧」
つまり、
「全員が毎日8,000歩を必ず達成しなければならない」
という意味ではありません。
年齢や体力、健康状態などには個人差があります。
現在3,000歩程度しか歩いていない人なら、いきなり8,000歩を目指す必要はありません。
まずは、
- いつもより10分多く歩く
- 一駅だけ歩く
- 買い物で少し遠回りする
- 日常生活の中で歩く機会を増やす
など、小さな変化から始めてみましょう。
「毎日歩く」ための簡単な工夫
歩く習慣を続けるために、特別な運動時間を確保する必要はありません。
日常生活の中に、歩く機会を少しずつ増やしていきましょう。
1.近所の買い物を徒歩にする
近所への買い物なら、可能な範囲で車や自転車ではなく歩いて行く方法があります。
荷物が多くなりすぎない範囲で、歩く時間を増やしてみましょう。
2.一駅手前で降りる
電車やバスを利用する人なら、体力や時間に余裕があるときだけ、一駅手前で降りて歩く方法もあります。
無理なく続けられる距離から始めましょう。
3.食後に少し歩く
食事のあとに短時間の散歩を取り入れる方法もあります。
「食事が終わったら少し歩く」と決めておくと、生活の中に組み込みやすくなります。
4.電話をするときに歩く
安全を確保できる場所なら、電話をしている時間を歩く時間に変える方法もあります。
ただし、スマートフォンの画面を見ながら歩くのは危険なので避けましょう。
5.歩数より「昨日より少し多く」を意識する
毎日8,000歩を達成することだけにこだわると、できなかった日に「失敗した」と感じてしまうかもしれません。
それよりも、
「昨日より少し多く歩けた」
という変化を意識してみましょう。
厚生労働省も、推奨量に届かない場合でも、今より少しでも身体を動かすことをすすめています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 推奨シート:成人版」
歩くだけで十分なの?
ここは、健康寿命を考えるうえで非常に重要なポイントです。
歩くことは重要な身体活動ですが、
「歩くだけで健康寿命対策はすべて完璧」
というわけではありません。
年齢を重ねると、歩く能力だけでなく、筋力やバランス能力を維持することも重要になります。
厚生労働省の身体活動・運動ガイド2023では、成人・高齢者ともに筋力トレーニングを週2~3日行うことが推奨されています。
また、高齢者では、有酸素運動、筋力トレーニング、バランス運動、柔軟運動などを組み合わせた多要素な運動を週3日以上行うことが推奨されています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 推奨事項一覧」
つまり、
「歩く+筋力を維持する」
という組み合わせを意識することが大切です。
歩く習慣を基本にしながら、スクワットなどの筋力トレーニングや、バランス能力を保つ運動も無理のない範囲で取り入れてみましょう。
無理をして歩く必要はありません
「健康のためだから」と無理をする必要はありません。
厚生労働省も、身体活動については個人差を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組むことを基本的な考え方として示しています。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
特に、
- 足や膝などに痛みがある
- 転倒への不安がある
- 体力が大きく低下している
- 持病がある
- 久しぶりに運動を始める
という場合には、自分の状態に合わせて活動量を調整することが大切です。
最初から長時間歩くのではなく、短い時間から少しずつ増やす方法もあります。
歩いていて痛みや体調不良が出た場合には、無理をせず、必要に応じて医療専門職へ相談しましょう。
8,000歩を達成できなくても大丈夫
「今日は5,000歩しか歩けなかった」
「8,000歩に届かなかったから意味がない」
そんなふうに考える必要はありません。
8,000歩は、成人の身体活動量を考えるうえでの目安の一つです。
2025年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、歩数と健康アウトカムとの関連は単純な「1万歩」という一つの境界ではなく、アウトカムによって異なることが示されています。全死亡、心血管疾患、認知症、転倒などでは、おおむね5,000~7,000歩付近から関連の変化がみられました。
Ding et al.「Daily steps and health outcomes in adults」PubMed・原論文
したがって、
「1万歩でなければ意味がない」
とは考えなくてよいでしょう。
大切なのは、
「ゼロか100か」ではなく、「今より少し多く」
という考え方です。
「毎日歩く」は小さな習慣だからこそ続けやすい
健康寿命を守るために、必ずしも特別な運動を始める必要はありません。
毎日の生活の中で、
「もう少し歩く」
「少し長く身体を動かす」
という小さな積み重ねも大切です。
日本人高齢者を対象にした研究では、歩行時間が長い人ほど、障害なく生存できる期間が長いことが報告されています。
「Time spent walking and disability-free survival in older Japanese」PubMed・原論文
また、歩行時間を増やした日本人高齢者では、歩行時間が少ないままだった人と比較して、障害なく生存できる期間が長かったことも報告されています。
Matsuyama et al.「Changes in time spent walking and disability-free life expectancy」PubMed・原論文
もちろん、これらの研究から「歩けば必ず健康寿命が延びる」と断定することはできません。
それでも、歩くことは、健康のために始めやすく、続けやすい身体活動のひとつです。
「運動しなければ」と思いながら何もできないより、
今日、10分だけ歩いてみる。
そんな小さな一歩から始めてみるのもよいでしょう。
まとめ|健康寿命を守る第一歩は「歩くこと」
今回は、健康寿命と「毎日歩く」という生活習慣について紹介しました。
ポイントをまとめると、
- 歩くことは、日常生活に取り入れやすい身体活動
- 歩行時間が長い人ほど、健康な期間が長いことが研究で報告されている
- 成人では約8,000歩、高齢者では約6,000歩が身体活動量を考える目安の一つ
- ただし、全員が同じ歩数を達成する必要はない
- 「今より少しでも多く身体を動かす」ことが大切
- 歩行だけでなく、筋力やバランス能力も意識したい
- 痛みや体調に合わせて、無理なく少しずつ始める
健康寿命を守るために、8,000歩という数字を達成することだけにこだわる必要はありません。
大切なのは、自分の現在の生活から、無理なく身体を動かす機会を増やしていくことです。
まずは今日、
いつもより少しだけ多く歩いてみませんか?
その小さな一歩が、身体を動かす習慣をつくるきっかけになるかもしれません。
参考文献・公的資料
厚生労働省
「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
成人・高齢者の身体活動量、歩数、筋力トレーニング、座位行動などについてまとめた厚生労働省の公的資料です。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
Matsuyama S, et al. 2022
Changes in time spent walking and disability-free life expectancy in Japanese older people: The Ohsaki Cohort 2006 Study
日本人高齢者7,105人を13年間追跡し、歩行時間の変化と障害なく生存できる期間との関連を調べた研究です。
PubMed:原論文情報
Ohsaki Cohort 2006 Study
Time spent walking and disability-free survival in older Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study
日本の65歳以上14,342人を対象に、1日の歩行時間と障害なく生存する期間との関連を調べた研究です。
PubMed:原論文情報
Ding D, et al. 2025
Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis
成人の1日の歩数と死亡、心血管疾患、がん、2型糖尿病、認知症、精神的健康、身体機能、転倒などとの関連をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析です。
PubMed:原論文情報
※本記事は健康情報の提供を目的としたものであり、診断や治療などの医療行為を目的としたものではありません。持病がある方、運動に不安がある方、運動中に痛みや体調不良がある方は、医療専門職に相談してください。


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